住宅機器販売部
日本国内で密閉形隔膜式膨張タンク(以下密閉式膨張タンク)が本格的に普及し始めたのは1970年代のことです。現在では新築ビルや一般的な建物の空調・給湯設備の導入において、標準設備として定着しています。本コラムでは、その普及の歴史を4つのフェーズに分けて解説します。
当時、日本のビル空調や温水暖房システムの多くは「開放式膨張タンク」を採用していました。これらはビルの最上階や屋上に設置されることが多く、大気と直接接する構造が特徴です。構造の単純さや低価格というメリットがありましたが、一方で以下のような欠点が存在しました。
– 配管内部が酸化しやすく、赤サビの原因になる
– 冬季には凍結リスクが高まる
– 設置場所が屋上などに限定される
高度経済成長期に入り、中高層ビルの増加や都市インフラの近代化を背景に、ヨーロッパ製の密閉式膨張タンクが日本国内で紹介され始めました。水と空気をゴム製の隔膜(ダイアフラム)で分離し、循環水を大気と接触させない密閉式とすることで、配管の酸化腐食を防げる点が注目されました。 また、建物内の機械室などに設置できるため、凍結リスクも軽減できることも利点とされました。この時期、海外メーカー製品の輸入・販売が主流であり、コスト面や国内規格への適合、メンテナンス体制の未整備など、普及には多くの課題がありました。
※弊社、森永エンジニアリング(株)は1970年代後半、ドイツのReflex Winkelmann GmbH社(当時の社名はWinkelmann + Pannhoff GmbH)から低圧の密閉式膨張タンクを輸入し、日本国内で販売を開始しました。これは、祖業である温水パネルヒーターのシステム密閉化を目的としたものでした。
バブル経済期以降、超高層ビルや大型オフィス需要の高まりを背景に、国内メーカーによる密閉式膨張タンクの国産化やライセンス生産が進展しました。
※弊社は1986年3月、ドイツのReflex Winkelmann GmbH社とライセンス契約を締結し、日本国内において第2種圧力容器に該当する密閉式膨張タンクの製造を開始しました。
日本の「第二種圧力容器構造規格」などの建築規制への適合も進み、開放式が主流だった時代から密閉式へと大きく転換が進みました。地下の機械室に設置可能な密閉式膨張タンクはホテルやオフィス等のビル設備で急速に普及し、配管の延命(赤サビ防止)や安全性・省エネルギー性の向上(安全弁から放出していた膨張水を、膨張タンクで吸収できること)といった効果が高く評価されました。
また北海道などの寒冷地では、温水パネルヒーターによるセントラルヒーティングの普及とともに、空調用小型密閉式膨張タンクが一般家庭でも用いられるようになりました。
2000年代以降は省エネや機械設備の長寿命化、環境意識の高まりを背景に、密閉式膨張タンクの役割がさらに拡大しています。新築工事では「標準仕様」として認識され、病院、ホテル、商業施設、そして一般住宅(※主に寒冷地)など幅広く導入されています。
歴史的な普及実績を踏まえ、今後の成長分野・用途拡大も注目されています。
1. 設備のIoT化・スマート化
機械室全体の遠隔監視やIoT化を背景に、タンクの圧力状態や寿命予測、メンテナンス最適化への需要が高まっています。センサー内蔵や通信機能付き製品への技術進化も期待されています。
2. 特殊用途・新市場の開拓
データセンター、半導体工場、研究所、医療施設のような専門分野、ITインフラ分野など、用途拡大が見込まれます。
3. メンテナンス・リニューアル需要
既存建物の設備更改、省エネ化、保守管理サービスやアフターパーツ需要も増加。法規制対応や高齢化建築ストックへの対応も重要な課題となっています。
日本における密閉式膨張タンクの普及は、「海外技術の導入」にはじまり、「国内法規への適合・国産化」、さらに「高層・大規模ビルの普及&省エネ志向」と「住宅への拡大(主に寒冷地における暖房システムの主要構成要素として)」が同時進行し、段階的に進んできました。この歩みは日本の建築設備トレンドや技術革新、そして社会的な省エネ・環境意識の高まりとも深く結びついています。今後も、省エネや環境配慮、設備のスマート化、特殊用途へのさらなる普及、さらにはメンテナンス市場の拡大など、幅広い成長分野が期待されます。 密閉式膨張タンクは、建築・設備分野の基盤インフラとして、その存在感をますます高めていくことでしょう。