低温水暖房システム 断熱材によって暖房効率はどう変わるか?

『断熱材によって暖房効率はどう変わるか?』のコンテンツには、主に以下の内容が含まれます。

◦断熱材
断熱材はいつでも家を暖かくてドライな状態に保つ上で大きな役割を担っている。
◦法改正によるプラスの効果
省エネルギーやコスト削減に加えて、優れた断熱には、快適な室内環境が得られるという利点がある。
◦現代の建物における熱利得と熱損失
熱利得と熱損失を考慮すると、エネルギー効率とそのレベルを決定することができる。

断熱

室内の熱は2通りの方法で外に逃げていきます。1つ目は、建物の外面、窓、壁や屋根などを通して熱が外へ出ていくもの(熱通過*による損失)、2つ目は、空気の流れにより外へ逃げていくもの(換気や気密不足による損失)です。しかし、なぜこれらを防ぐための方法が断熱なのでしょうか?理由は一つです。断熱が最も費用対効果が高く、暖めた空気の熱損失を最低限に抑えることができるからなのです。
*熱貫流とも言う
人間の身体は1時間に約20lの二酸化炭素と約50gの水蒸気を放出します。更に、家事や入浴で1日あたり数lの水蒸気が、部屋の空気中に放出されるため、換気が必須になります。換気を減らすと、居住者の健康状態に問題が生じたり、建物を汚染(カビなど)するといったことが起こります。

断熱材を性能向上させた場合の問題点としては、建物の気密性が高くなることが挙げられます。気密性が高くなると、換気が行いづらくなる、室内の湿度が上がる、空気中の二酸化炭素含有量が高くなる、窓などにおいて結露が生じる、といった問題が現れてきます。このため、適切な断熱が施された建物には、機械による計画換気装置が設置されるべきなのです。

また、換気による排出から回収した熱は、効率の良いエネルギー源として再利用することができるのです。

断熱材はいつでも家を暖かく、ドライに保つ上で大きな役割を担っている

断熱材は、わら、おがくずやコルクが使用されていた最も初期の段階から、いつでも家を暖かくてドライに保つ上で大きな役割を担ってきました。今日は、ガラス繊維、鉱物繊維、ポリスチレン、ポリウレタン製のボードや現場発泡品などが、断熱材の材料として使われており、こういった素材のおかげで建設方法が変化し、厚い壁や高温水パネルヒーターの熱特性に頼ることが減ってきました。

20年で86,000ユーロの(10,500,000円)節約 *1ユーロ=約122円として換算

明らかに、断熱性が高い家は、断熱性が低い家と比べて、家全体を容易に暖めることができます。また、熱損失も少なく、家を温めるために必要なエネルギー量も少なくて済みます。図2.1は、2つの住宅(断熱改修済みと断熱未改修)の予想暖房費を比較したものです。この大きな差は、年月が経つにつれてますます開いていき、驚くべきことに、20年後には86,000ユーロもの差、つまり節約に繋がるのです。

図2.1 一戸建住宅の予想暖房費: 断熱改修済みの家と断熱未改修の家との暖房費の比較 * 毎年5%のエネルギーコスト増加を見込んでいます。

図2.2 1977年以降のドイツでの建物断熱条件の変化

断熱方法そのものや、断熱材料によって室内のエネルギー効率が向上したことに伴い、新しい法律がヨーロッパ各国では制定されています。このことは、新築の建物および改修された建物に対して、近年ますます厳しくなっている建築物などに対する規制に適合することを保証するものです。ドイツを例にとると、1977年以降、この一連の規制により、屋外への熱損失許容レベルが着実に低くなっていることが分かります。

1977年頃の設計上の温水入口温度/温水出口温度の基準は、EnEV2009のほぼ2倍

水を熱媒に使用したセントラルヒーティングシステムで家を暖房している場合、著しい進化の1つは、温水入口温度/温水出口温度です。1977年頃の設計上の温水入口温度と温水出口温度の基準は90/70であり、EnEV2009のほぼ2倍でした。低温水暖房システムへの移行は、効率的なエネルギー利用が可能になったということなのです。

法改正によるプラスの効果

省エネルギーやコスト削減に加えて、優れた断熱には、快適な室内環境が得られるという利点がある

エネルギーの節約とコストの削減だけが、厳しい法規制がもたらした影響ではありません。より良い断熱方法により、より快適な室内環境が得られるようにもなったのです。図2.3〜2.5では、建築法の改正に合わせて断熱を施した場合の部屋の内部を図解しています。見ていただければ分かるように、全ての例に共通する唯一の数値は、外気温度の-14°Cのみです。図2.3の窓の表面温度は、一枚ガラス窓なので0°Cです。許容できる(人が不快に感じない)20°Cの室内温度まで達するためには、WSVO1977基準に従って断熱を施した家は、温水平均温度が80°Cの高温水放熱器を使用する必要があり、このように非常に高温であっても、壁の温度は12°Cにしかならず、温度差は大きくなり、気になるコールドスポットが多くなります。
*WSVO:ドイツ連邦断熱政令
*EnEV2009:ドイツ省エネルギー政令2009

室内環境

やがて、建築規制が改正されると、図2.4に示すように、室内温度は目に見えて高くなりました。二重ガラス窓の普及と共に、窓の凍結や窓のそばの室温が0度以下になることもなくなったのです。

理想的な室内温度に達するために、現在の放熱器はたった50°Cの熱出力(温水平均温度)を発生するだけでよく、これで壁の温度は18°C(窓表面温度14°Cと室内温度20°Cの間のバランスの取れた平均ふく射温度)に達します。さらにEnEV2009に準拠して断熱を施した建物の場合は、EnEV2012の基準に向かって更に改善されています。

図2.3 1977年以前の標準的な家の温度(90/70/20°C)

図2.4 ドイツ省エネルギー政令2002(55/45/20°C)

図2.5 ドイツ省エネルギー政令2009(45/35/20°C)

向い合う壁における平均表面温度の差が5°C以下

2.5の壁で示されている温度は、ほぼ室内温度です。外が氷点下であっても、窓は暖かい状態なのです。この理想的な状態を達成するために、現在の温水パネルヒーターの放熱量については、平均温水温度が40°Cあればよく、これは図2.3の基準に従って断熱が施された同じ大きさの建物と比べると50%も低くなっています。

★快適な暖かさ:幾つかの標準的基準があるが、以下はその一例である。

  • 室内の平均空気温度および平均表面温度が約21°Cであること。
  • 室内の空気温度と平均表面温度の差が3°C以内であること。
  • 向い合う壁における平均表面温度の差が5°C以内であること。
  • 頭と足元の高さの平均温度差が3°C以内であること。
  • 室内の気流の速度が0.15m/秒未満であること。

新旧の断熱システムの比較

図2.6 断熱の重要性を示しています。この例では、放熱器は同じサイズです。

古い鋳鋼製放熱器の欠点 保有水量:多い(大容量の循環ポンプ、高い電気代) 質量:重い 制御性:悪い 昇温・冷却時間:長い (最新の低温水暖房システムには適していない) デザイン:古めかしい 現在の温水パネルヒーターの利点 保有水量:少ない 質量:軽い 制御性:良い 昇温・冷却時間:短い 効率化された暖房出力 デザイン:モダンな外観、変わった形状、好みに合わせて色、デザインが選べる * nは放熱器の平均温水温度と空気温度の差θOにつく指数です。放熱器の全放熱量qはq=CθOnAOで表されます。(Cは定数、AOは放熱面積)

温水パネルヒーターのサイズ

過去30年間に建物のエネルギー効率が向上したことで、温水パネルヒーターの設計温度を下げることが可能になりました。図2.6では、2つの放熱器はほぼ同じ寸法となっています。いずれの場合も望ましい室内温度は同じです。見れば分かるように、断熱されていない家では、望ましい温度を達成するために、よく断熱されている家と比べて温水入口温度と温水出口温度をかなり高くする必要があります。つまり、断熱材の進化のおかげで、現代の部屋のヒーターが、たとえ昔の部屋のものと同じサイズであっても、熱需要レベルを下げることができるということです。

図2.7 温水パネルヒーターは建物に必要な暖房負荷の変化に一致します。この場合、パラメーターは放熱器の平均温水温度と温室(20°C)の差(Δt)です。

熱利得と熱損失

建物の居住者が必要とするエネルギーは、暖房システムに使われる分も含んでいます。図2.8は、エネルギーが一次エネルギーとして産みだされた後、どのようにしてその出発点から家の中に持ち込まれるかを図示しています。

熱利得と熱損失を考慮すると、エネルギーの効率レベルを決定することができる

建物で使用されるエネルギーは、建物内の人々のニーズに応じて変わります。人々の要求を満たし、快適な室内環境を提供するには、暖房システムが一次エネルギーを消費して、建物に与えたエネルギーから熱を発生させる必要があります。熱利得と熱損失がファクターとされた場合、必要な暖房エネルギーを決定することが出来ます。熱エネルギーをどう使用するかは、暖房システムの効率や、これまで見てきたように、建物の断熱レベルに応じて異なってきます。

現代の建物での熱利得の影響

熱利得(日射や内部発生熱など)というものは、必要な暖房エネルギーを検討する際にしばしば見過ごされることが多いものです。電気機器のスイッチを入れる、人が建物に入ってくる、または太陽光が部屋に入射するなど、こういったことは、全て室内の温度を上昇させます。

エネルギー効率は、2つの事項に大きく依存しています。1つ目は、暖房システムがいかに熱利得を利用し、暖房エネルギー消費を減らすかということと、2つ目は、システムの熱損失がいかに低いか、ということです。

図2.8 エネルギー需要の計算の図解

暖房システムが偶発的な熱利得に素早く反応できることが必要である

現代の建物はより熱に敏感なように建築されているため、暖房システムが偶発的な熱利得に素早く反応できることが必要なのです。そうでなければ、室内温度は居住者にとって不快なものになってしまいます(例えば、オフィスの生産性にマイナスの効果を与えることがあります)。

例 30m2のリビングルームの暖房負荷。建物の規格EnEV 2009、一軒建、建築場所ハノーバー市(ドイツ)。–14°Cでの熱負荷=35W/m2=1050W0°Cでの熱負荷=21W/m2=617W+3°Cでの熱負荷=18W/m2=525W室内平均熱利得DIN4108-10に準拠した平均値=5W/m2=150W横になっている人=83W/人座っている人=102W/人電球、60WTFTモニターを搭載したPC=150W/台(アクティブ)、5W/台(スタンバイ)テレビ(プラズマスクリーン)=130W/台(アクティブ)、10W/台(スタンバイ)例:大人2名、照明、テレビ、その他=約360~460W最先端の暖房システムは、屋内のさまざまな熱利得に迅速に対応できる必要があります!

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