低温水暖房システム 利用率の増加

『利用率の増加』のコンテンツには、主に以下の内容が含まれます。

◦ヒートポンプと潜熱回収型ボイラー
ヒートポンプと潜熱回収型ボイラーという2種類の熱源と、断熱をほどこした建物は、いずれも低温水暖房システムの熱源として効率的な手段である。
◦発熱効率
これらの熱源は、低温水暖房システムとの組み合わせで完璧に機能を発揮する。
◦建物のエネルギー改修
低温水暖房システムを設置した建物は、床暖房の建物よりも総エネルギー消費量が少ない。
古い建物のエネルギー効率を改善することが、より効果的な省エネルギー化の方法である。

ヒートポンプ

建物の熱需要が低くなったおかげで、今や、住宅やオフィスではより少ない暖房エネルギーで室内を暖かく保つことができます。これにより、近代の暖房システムにおいてヒートポンプが理想的な相性の良い熱源になりました。

地下数メートルの温度は年間を通して10°C前後とほぼ一定です。地中熱ヒートポンプは、100〜150m地下に埋設したループ状の垂直配管や、地表近くに張り巡らせた水平な敷設網を使って地中熱を利用するもので、一般的に、水とエタノールの混合液(不凍液)が、このループに注入されます。熱交換が行われた後、温められた流体はポンプに戻ります。そこから、暖房システムへと熱が移行されます。空気/水ヒートポンプも優れた選択肢であり、外気や換気による排気を熱源として使用することができます。

図3.1 ヒートポンプの概念

潜熱回収型ボイラー

従来のボイラーは、高熱の燃焼ガスが通過する熱交換器の水路に囲まれた単一の燃焼室を有するもので、これらのガスは最終的に、200°C前後でボイラー頂部にある煙管から放出されていました。このようなボイラーは、もはや新たに設置されることはありませんが、これまでの住宅には多く設置されています。一方、潜熱回収型ボイラーでは、熱はまず一次熱交換器を通って上方へ向かいます。そしてボイラー頂部で、燃焼ガスは進路を変えて二次熱交換器へと向かいます。

潜熱回収型ボイラー内では、ガスや灯油などの燃料が燃焼して、配管回路内の水を加熱します(ここには、ラジエーターの水も含まれます)。燃料が燃焼すると、燃焼過程の副生成物である水蒸気が凝縮して温水になります。

ヒートポンプと潜熱回収型ボイラーは、いずれも低温水暖房システムの熱源として効率的な手段である

そこから熱エネルギーが抽出され、戻り管の水流に熱が伝わり、凝縮潜熱が回収された後、循環回路に戻ります。(図3.2)。このシステムは、ガスでも灯油でも使用できますが、灯油を使用するシステムでは47°Cにならないと燃焼ガスの水蒸気が凝縮して温水にならないのに対し、ガスシステムでは57°Cで凝縮するため、潜熱の回収効率が良いのです。更に、ガスシステムの利点は、燃焼ガスの中の水蒸気量が高いことです。

潜熱回収型ボイラーを用いて、燃焼させた燃料を効率よく使用することによって、著しい省エネルギー化が可能になります。煙管ガスが200°Cになっても、まだ利用されていない熱を含むガスが逃げてしまう従来のボイラーと比べて、排気ガスの温度は、50°C前後で済むのです。

ヒートポンプと潜熱回収型ボイラーはいずれも、断熱を施した近代的な建物における低温水暖房システムの熱源として効率的な手段です。低温水をつくることは、温水パネルヒーターに非常に適しており、再生可能エネルギーを含めたどのような熱資源とも組み合わせて使用することが可能です。

図3.2 潜熱回収型ボイラーの概念図

※潜熱回収型ボイラーは日本では『エコジョーズ』で販売されています。

図3.3 温水出口温度(°C)

発熱効率

暖房回路への温水入口温度が55°Cより低い状態が続くと、潜熱回収型ボイラーは凝縮モードで機能を発揮することができます。標準的なボイラーと比べて、灯油の場合には約6%、ガスの場合には約11%効率がアップしています。

ヒートポンプも、低温水暖房システムとの組み合わせで完璧に機能を発揮する

多くの場合、ヒートポンプは床暖房用として想定されていますが、実際には温水パネルヒーターを用いた低温水暖房システムとの組み合わせで完璧に機能を発揮します。規格EN14511-2には、暖房システムの温水入口温度のみを考慮して季節性能係数(SPF)を計算するための簡易的な方法が記載されています。この計算方法は、一般的に温水入口温度と温水出口温度との差が小さい(多くの場合、5K未満)床暖房の場合に正確なSPF値を正しく算出することができます。しかし、この簡易的な方法は、温水入口温度と温水出口温度との差が大きい温水パネル暖房には適用することができません。これらの計算を目的として、EN14511-2には、温水出口温度も考慮する正確な方法が示されています。SPFの累積値が、通年成績係数(COPa)であり、これは1年間のヒートポンプの効率を表します。

備考:暖房・給湯用ソーラー付属の潜熱回収型ボイラーの一次エネルギー必要量は、水のみを使用するヒートポンプと同程度である。
資料提供元:ZVSHK, Wasser Wärme, Luft, Ausgabe 2009/2010

3.4は、様々な設計水温でのCOPa値(暖房+給湯の組み合わせ、および暖房のみの場合)の表であり、その時の凝縮温度も示しています。例示した建物は、地中熱ヒートポンプを設置したミュンヘンにある近代的な一戸建て住宅です。成績係数(COP)の値は、研究機関での測定により確認されています(Bosch 2009)。

図3.4 COPa =ヒートポンプによって1年間単位で供給される熱量を、1年間にヒートポンプを駆動させる動力エネルギーで除したもの

ヒートポンプを熱源機として用いた場合、温水パネルヒーターを低温水暖房システムに利用することが非常に好ましい

この結果から、ヒートポンプを熱源機として用いた場合、温水パネルヒーターを低温水暖房システムに利用することが非常に好ましいことが分かります。小さめの住宅用のヒートポンプは、多くの場合、家庭用給湯システムと組み合わせて使用されています。組み合わせた場合のCOPa値と比較すると、典型的な低温水暖房システム(45/35)の設計水温では、ヒートポンプ効率が55/45システムよりも約10%アップしています。45/35システムと一般的な床暖房に採用される40/30システムとの差は約3%であり、35/28システムとの差は9%です。

図3.5 サーモスタットバルブを使用する場合、温水パネルヒーターの温水出口温度は、熱の取得とサーモスタット機能の反応により、さらに低くなります。(水色の範囲)

建物のエネルギー改修

要するに、熱源機としてヒートポンプを使用した場合でも、温水パネルヒーターによる低温水暖房システムを設置した建物は、床暖房の建物よりも省エネルギーなのです。COP値の差は、低温水暖房システム全体のエネルギー効率が高いことで相殺されます。

古い建物のエネルギー効率を改善することが、より効果的な省エネルギー化の方法である

現在、特に住宅用建物では、エネルギーの消費量がますます増えてきています。建物で使用されるエネルギーは、ヨーロッパにおけるエネルギー消費量の大部分を占めており、論理的に言えば、省エネルギー活動の主な目的は、建物内のエネルギー使用量を減らすことなのです。ところが、興味深いことに、エネルギー消費量の点からすると、近代的な建物(新築または適切に改築された建物)は、実際には問題ではありません。ドイツの住宅を例にとると、1982年以降に建設された新築の建物は、ドイツ全体の住宅の23%を占めますが、全体のわずか5%の暖房エネルギーしか消費していません。言い換えると、古い建物のエネルギー効率を改善することが、より効率的な省エネルギー化の方法なのです。

図3.6 建物とエネルギー消費の観点から、古い建物に焦点を当てる。1982年以前に建設されたドイツの77%の建物は、95%の暖房エネルギーを使用しています。

建物の総エネルギー収支は、建物に出入りするエネルギーの流れで成り立つ

現建物の総エネルギー収支は、建物に出入りするエネルギーの量で成り立ちます。冷房エネルギーは、これらの数字には含まれていません。例として示した建物のエネルギーの量は以下のように定義することができます。

図3.7 複数階建ての建物の総エネルギー収支の例

図3.8 複数階建ての暖房エネルギー収支の例

これらの数字は、二階建て以上の古い建物に関する数値例です。熱通過による損失と換気を含めた空間暖房エネルギーの典型的な需要量は、約240kWh/m²年となっています。他のタイプの住宅の概算値を求めたい場合には、表面(外壁)の大きさやU値、換気風量を考慮しなくてはなりません。例えば、平屋建ての住宅は、二階建て以上の建物と比べて、屋根や地面からエネルギーを消失しやすくなっているからです。

年間必要暖房負荷値と基準暖房負荷値

ドイツの様々な建物のエネルギー基準の各期間に関する統計データに基づき、床単位面積あたりの年間必要暖房負荷値(kWh/m²年)と基準暖房負荷値(W/m²)の相関図を作成することができます。

例示した二階建て以上の建物が、リノベーションされているとして見積りをしてみます。当初の基準暖房負荷値は、図3.9の年間必要暖房負荷値240kWh/m²年から見積もることができ、その値は約120W/m²です。

建物の外面と断熱材が改修された建築部位の新たなU値は以下の通りです。

外壁
U=0.24W/m²K
窓・外部ドア
U = 1.3W/m²K
屋根
U = 0.16W/m²K
地面
U = 0.5W/m²K
 
Uw.mean = 0.40W/m²K

建築部位の表面積が変わらず、換気風量もそのままである場合、断熱改修効果を計算することができます。U値(Uw.mean値)が1.3W/m²Kから0.40W/m²Kに下がると、熱通過による損失が30.7%に低下します。その結果、換気量が変化しなくても、総熱損失量は44.3%に低下します。

(注)この種の大規模な断熱改修プロジェクトの動機は、高性能の窓や魅力的な建物の外観、または快適な温熱環境や健康的な屋内環境を得たい、といった要望からくることが多いものです。

新たな熱損失要因ごとの比率は以下の通りです。

換気及び気密漏れ
65.1%
外壁
11.4%
窓・外部ドア
16.1%
屋根
3.0%
床面
4.4%
合計
100%

熱負荷は、当初の場合よりも44.3%小さくなります。そして、新たな基準暖房負荷値は約67W/m²であり、図3.9を見ると、対応する年間必要暖房負荷値は約100kWh/m²年であることが分かります。

図3.9 必要暖房負荷-各法令での床単位面積あたり年間暖房負荷値概算図

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